2026年8月6日、サステナブル・ラボは、株式会社ブレンドワークスコンサルティング代表取締役の山本高嗣氏をお招きし、「『フルコンプライ』では語れないガバナンス開示―コーポレートガバナンス報告書18,325件で読むエクスプレインの現在地」を大手町にて開催しました。
当日は、幅広い業種の事業会社のIR・経営企画・ガバナンス関連部門のご担当者に加え、シンクタンク、金融情報サービス、コンサルティング・会計等の専門サービスに携わる方々にもご参加いただきました。
今回のセミナーは、直近のコーポレートガバナンス・コード改定だけを契機とした企画ではありません。サステナブル・ラボでは2025年にも、取締役会の構成や社外取締役、監督と執行のバランスをデータから読み解くセミナーを開催しています。
前回のテーマが「誰が、どのような体制で経営を監督するのか」だったのに対し、今回は視点をコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)へ移し、「その監督・判断・改善を、企業がどこまで説明できているのか」を考えました。
開催概要
日時: 2026年8月6日
会場: 大手町・FINOLAB
形式: 対面開催
登壇者:
株式会社ブレンドワークスコンサルティング
代表取締役 山本 高嗣氏
主な内容:
- CGコードは、何のために存在するのか
- CG報告書18,325件のテキストデータ分析
- All Complyと「Comply & Explain」の現在地
- 取締役会実効性評価の開示
- 株主との建設的な対話の開示
- 説明力のあるCG報告書に共通する要素
- 自社開示を見直すための実務ポイント
CGコードの目的は、「すべての原則に対応すること」ではない
セミナーの冒頭、山本氏は参加者に次のように問いかけました。
「皆さん、コーポレートガバナンス・コードの表紙に何が書かれているかご存じですか?」
そこに掲げられているのが、
「~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
という言葉です。
山本氏は、コーポレートガバナンス・コードを考えるうえでは、まずこの目的に立ち返ることが重要だと指摘しました。
CGコードの目的は、すべての原則に形式的に適合すること自体ではありません。会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて、多様なステークホルダーとの関係を踏まえながら、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を実現していくことにあります。
そのため、All Complyであることだけで、ガバナンスが十分に機能しているとは判断できません。同じ原則を実施している企業でも、取締役会の監督のあり方や経営陣との役割分担、実際の運用には違いがあります。
だからこそ重要になるのが、単に「原則を実施しています」と示すことではなく、なぜ現在の仕組みを採用しているのか、どのような課題を認識し、どのように改善しているのかを、自社の言葉で説明することです。
今回のセミナーでは、このCGコード本来の目的を出発点として、CG報告書が企業固有のガバナンスや経営判断をどこまで説明できているのかを、データと具体事例の両面から読み解いていきました。
CG報告書18,325件を分析すると、All Complyの中にも大きな違いが見えた
に山本氏のパートの後は、サステナブル・ラボがCG報告書18,325件のテキストデータを分析した結果をもとに、企業の開示傾向を紹介しました。
主な分析対象とした2025年のプライム市場企業1,549社について、CG報告書の記述状況をもとにサステナブル・ラボ独自の分類を行うと、
- Comply or Explain:759社(49.0%)
- All Complyだが原則別の説明も行う「Comply & Explain」:666社(43.0%)
- All Complyのみ:124社(8.0%)
という結果になりました。
つまり、All Comply企業の中でも、多くの企業が「すべて実施しています」とだけ記載するのではなく、個別原則について追加的な説明を行っていることが分かりました。
ここから見えてくるのは、All Complyか否かという二分法だけでは、企業の開示姿勢や説明力の違いを捉えにくいということです。
この結果からも、All Complyか否かという二分法だけでは、企業ごとのガバナンスの考え方や開示姿勢の違いを捉えきれないことが分かります。
どの原則について、自社として何を説明する必要があるのか。その中身まで見ることが、CG報告書を読み解くうえで重要な視点になります。
原則によって大きく異なる、CG報告書の記述傾向
原則別に記述傾向を見ると、記述が集中する原則と、明示的な記述が非常に少ない原則との間に大きな差が確認されました。
特に興味深かったのは、制度や実施事項を記載しやすい原則と、取締役会・経営のあり方そのものに関わる原則で、記述傾向が異なっていたことです。
もちろん、原則別の欄に記載がなくても、CG報告書の別項目や統合報告書、ガバナンス・ガイドライン等で説明されている場合があります。
その点には注意が必要ですが、今回の分析からは、制度や活動の事実を記載しやすい原則と、企業固有の監督・判断・役割分担に関わる原則との間で、記述傾向に大きな差があることが確認されました。
なぜ、この差が生じるのか。
記載場所の違いなのか、説明する必要性の認識なのか、それとも企業固有の判断を言語化する難しさなのか。
セミナーでは、記述件数だけで結論づけるのではなく、実際のCG報告書の内容も確認しながら、制度や取り組みの実施事実を示すことにとどまっていないか、その先にある企業固有の判断や改善まで説明できているかという観点から分析を深めました。
さらに当日は、「取締役会の実効性評価」や「株主との対話」を取り上げ、こうした違いが個別テーマの開示にどのように表れているのかを分析しました。
定量的なテキスト分析に加え、実際のCG報告書の記述も確認しながら、数字だけでは捉えきれない企業ごとのExplainの違いや具体的な開示事例を紹介。そこから見えてきた示唆や、今後検証すべき仮説を参加者の皆さまと共有しました。
※本分析はCG報告書上の原則別の記述状況をテキストベースで整理したものであり、記述件数そのものをガバナンスの実効性や開示品質の評価として扱うものではありません。実際の分析では、個別企業の記述内容もあわせて確認しています。
「フルコンプライ」の先にある、企業固有のExplainへ
取締役会実効性評価と株主対話の分析に共通していたのは、制度や活動の有無だけでは、その企業のガバナンスの実態までは見えにくいという点です。
CG報告書では、
「評価を実施しています」
「投資家と対話しています」
「取締役会に報告しています」
といった事実を記載することはできます。
取締役会実効性評価と株主対話の分析に共通していたのは、制度や活動の有無だけでは、その企業のガバナンスの実態までは見えにくいという点です。
「実施しているか」だけではなく、そこで何を認識し、どのように判断し、その後の改善や経営につなげているのか。セミナーでは、実際の開示事例を比較しながら、企業ごとのExplainの違いを読み解きました。
今回の分析から見えてきたのは、All Complyか否かだけでは、企業ごとのガバナンスの実態や説明の違いを捉えきれないということです。
CGコードが目指す「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」に向けて、自社のガバナンスをどう設計・運用し、それをどのようにステークホルダーへ伝えるのか。CG報告書には、企業固有の考え方を伝える余地がまだ残されています。
サステナブル・ラボでは今後も、CG報告書の大規模テキスト分析と実際の開示内容の検証を組み合わせながら、ガバナンス開示について研究・発信していきます。
「コーポレートガバナンス報告書高度化支援」について
サステナブル・ラボでは今後、株式会社ブレンドワークスコンサルティングの山本高嗣氏が持つ、発行体企業およびコンサルティング実務に基づく知見と、サステナブル・ラボが保有するCG報告書18,325件のテキストデータ・分析基盤を組み合わせた、「コーポレートガバナンス報告書高度化支援」の提供を予定しています。
本サービスでは、自社のCG報告書について、
- 同業・同規模企業と比べて、どのような特徴があるのか
- 原則ごとの記述について、他社と比較した際にどのような特徴・改善余地があるのか
- どのテーマから優先的に見直すべきか
- 自社固有のガバナンスの考え方を、どのように開示へ反映できるか
といった点を、実務知見による定性的なレビューと、他社比較を含む定量分析の両面から整理することを想定しています。
現在はサービス設計の初期段階にあり、今後、パイロットユーザーとしてご協力いただける企業を募集しています。
自社のCG報告書について、「どこから見直せばよいか分からない」「他社との違いを客観的に把握したい」「次回改訂に向けて改善余地を整理したい」といった課題をお持ちの企業のご担当者さまは、ぜひお問い合わせください。








