要約
SSBJ対応の準備を始めたばかりのプライム市場上場会社にとっては、基準を読んでも、どの資料や部門から確認すべきか判断しにくい場面があります。準備初期は、大きな集計表を作る前に、過去の検討資料から1つのテーマを選び、事業への影響、データの所在、関係部門、不明点を順に整理することで、次に確認する相手と追加で必要な情報を特定できます。
執筆:サステナブル・ラボ編集部
データを集める前に、検討の順番を決める
SSBJ基準のどこから読み、社内の誰に声をかけるか。準備初期に先に決めたいのは、集計表の形よりも検討の順番です。
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の開示基準は、投資家などが企業への投資や融資を判断する際に使う、サステナビリティ関連のリスクと機会の情報を開示するための基準です。一般開示基準では、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標の4つを軸に開示します。データだけ先に集めると、「なぜこの情報が必要なのか」「どの判断に使うのか」が曖昧になりかねません。
出発点は、「自社の事業は何に支えられ、どんな変化の影響を受けるのか」という問いです。過去の資料をそのまま基準に当てはめるのではなく、誰が、どの事業の見通しを考えるために使う情報なのかを確認します。準備初期は、開示項目との対応付けや開示データの収集を急ぐより、先に論点を見える形にすると、その後の確認範囲を整理しやすくなります。
過去の検討資料は、使える知見として読み直す
すでに自社の重要なサステナビリティ課題(マテリアリティ)を整理しているなら、その結果や検討資料は、リスクと機会を考える参考材料になります。経営会議や取締役会で話した論点、ステークホルダーとの対話記録も確認対象です。環境、人権、人的資本、調達、地域との関わりについて、どの部門が何を問題と考えていたのか、ゼロから考え直す前に社内の知見を集めます。
ただし、過去の一覧をSSBJの開示項目としてそのまま扱うのは避けたいところです。マテリアリティを整理した当時の目的や見方は、会社ごとに違います。SSBJに沿って検討するときは、サステナビリティ関連のリスクや機会が、将来の収益、費用、資金調達、事業の継続にどう関わるかを、自社の状況に照らして考えます。SSBJのリスク及び機会の識別に関する解説も、事業の仕組みや取引のつながり、自然・人材などへの依存、事業が外部へ与える影響を踏まえるよう示しています。
テーマの一覧より先に集めたいのは、「なぜ重要と考えたのか」が分かる資料です。当時の判断理由、関係する事業・拠点・取引先、参照した資料。この3つが見えると、いま確かめるべき論点を絞りやすくなります。古い資料をそのまま使わず、現在の事業や外部環境と何が変わったかも確認します。
テーマ名だけで終わらせず、事業で何が起こるかまで考える
「気候変動」「人権」とテーマ名を書くだけでは、担当部門が確認すべき範囲まで伝わりにくくなります。事業で何が起こり得るのかまで、一段掘り下げます。調達の論点なら、原材料の安定調達、取引先への要求、コスト、製品の供給責任のうち、どこに不確実性や選択肢があるのか。人材なら、採用人数だけでなく、必要な技能の確保、職場環境、事業継続との関係まで見ていきます。
検討するのは事業リスクだけではありません。変化への対応によって、新しい製品、市場、調達方法を選べる余地が生まれるなら、それも機会として考えます。ただし、明るい見通しを並べるだけでは不十分です。事業モデルや取引のつながりのどこで、何が起こり得るのかを具体的な言葉にします。
リスクや機会ごとに、影響を受ける事業、起こり得る変化、考える期間、関係部門を短くメモします。この段階では評価表を作り込むより、営業、調達、人事、設備、法務などへ具体的な質問を持って行けるところまで整理しておくと、次の確認へ進みやすくなります。
スコアだけで「重要」かどうかを決めない
洗い出したリスクや機会を、すべて同じ深さで開示するわけではありません。SSBJ対応では、投資家などの投資・融資の判断に影響すると合理的に見込まれる情報を「重要性がある情報」とします。一般的な点数表だけで結論を出さず、重要性がある情報の識別に関するSSBJの解説が示すように、自社の事実と状況を踏まえて行います。
そのため、点数を細かくする前に、次のような問いを並べると、関係部門に何を聞けばよいかが見えやすくなります。
- そのリスク・機会は、収益、費用、資産、資金調達、事業の継続性にどう関係し得るか
- 影響が表れるのは短期か、中長期か。前提が変わったときに見通しはどこまで動くか
- 経営として既に意思決定していること、これから選ぶことは何か
- 投資家が事業の見通しを理解するために、説明がないと判断しにくい点はどこか
結論だけでなく、そこに至った理由を残すことが望ましいです。例えば「現時点では開示の優先度が高くない」とした場合も、対象外とだけ書くと、次年度に判断の経緯をたどりにくくなります。見た資料、関係部門の見解、前提にした期間、未確認の点を短く記録しておけば、議論の経緯をたどれます。チェックリストは、あくまで補助として扱い、最後は自社の事実と根拠をもとに判断します。
8つの欄で、いま分かっていることを棚卸しする
重要性がありそうな情報が見えてきたら、次はデータの所在、関係部門、不明点を確認します。以下の表は、準備初期の現状を把握するための8つの確認欄です。SSBJの標準様式や法定の8項目ではありません。すべての欄を最初から埋め切るのではなく、分かっていることと、追加確認が必要なことを切り分けるために使います。
| 確認欄 | まず書くこと |
|---|---|
| 1. 関連するSSBJ要求・開示テーマ | 分かる範囲で、関係しそうな要求や開示テーマ |
| 2. データ項目・説明項目 | 数値、方針、計画、説明文など、用意する情報 |
| 3. 保管場所・使用システム | 業務システム、台帳、報告書、部門保管のファイルなど |
| 4. 情報を作る部門・拠点 | 情報が発生する事業部門、拠点、子会社など |
| 5. 集計・作成する担当者 | 数値をまとめる人、説明文を起案する人 |
| 6. 内容を確認する人・最終判断する人 | 現在、内容を確かめている人と判断する人。不明なら空欄 |
| 7. 元資料・計算根拠・承認記録 | 現在たどれる請求書、計測値、計算方法、会議記録など |
| 8. 不足情報・次に確認する相手 | 定義の違い、欠けている範囲、次に聞く部門や担当者 |
たとえば、海外拠点を含むエネルギー使用量を取り上げるなら、請求書や計測値はどこにあるか、どの拠点まで含むか、誰が集計しているかを確かめます。関連するSSBJの要求や確認する人が分からない場合は、その欄をいったん空けておきます。対象範囲が不明なら、8番に「元資料を管理する拠点・部門へ確認」と書くと、次の確認先が明確になります。準備初期の棚卸しでは、情報の所在、担当者、不明点をつかむだけでも、次の作業を決める材料になります。元資料や承認記録の管理方法までこの時点で決めるかは、自社の準備状況に応じて判断します。
空欄を3つに分け、次の確認先を決める
表に残った空欄は、次の3つに分けると確認先を整理しやすくなります。
- 情報がない空欄:まだ測っていない、または集めていない。必要性と収集方法を検討する。
- 情報はあるが説明できない空欄:定義、計算、対象範囲、更新履歴を確認する。
- 判断が残る空欄:重要性や事業への影響について、経営・事業部門と議論する。
分類後は、問いの内容に応じて確認先を変えます。事業部門には事業への影響を、管理部門には手元の資料を、経営には判断の前提を確認します。データ部門だけで抱えず、論点ごとに必要な部門をつなぎます。
着手時は、過去の検討資料から事業への影響を説明しやすいテーマを1つ選び、8つの確認欄でデータの所在、関係部門、不明点を整理します。1つのテーマで確認方法を試してから全項目へ広げると、質問の仕方や確認範囲を調整しやすくなります。
「どこから確認すればよいか」を自社だけで決めにくい場合は、現状、データの所在、関係部門を整理するところから、サステナブル・ラボへご相談ください。
参考資料





