要約
統合報告書を画面では読めても、PDFから文章を取り出すと順序が崩れたり、表の見出しと数値の関係が切れたりすることがあります。AI可読性を確かめるときは、言い回しより先に、本文・表・注記を取得できるか、見出しや表の構造が残るか、数値の年度・範囲・根拠をたどれるかを見ます。まず主要な1ページと1表をPDFとHTMLで比べると、公開前に直す場所を絞りやすくなります。
執筆:サステナブル・ラボ編集部
実務で確認範囲を迷わないよう、サステナブル・ラボではAI可読性を以下の3層で整理しています。
第1の層:テキスト抽出の確実性。本文が画像化されていないか、読み順がバラバラにならないか、表の行・列見出しと数値が引き離されていないか。画面で見えているものが、データとして再現できるかを最低限の基準とします。
第2の層:文書構造。見出しが論理的な階層として設定されているか、表のヘッダーとデータがプログラム上で紐付いているかを確認します。W3C(World Wide Web Consortium:Web技術の標準化を行う国際的な団体)のPDF見出し技法とPDF表構造の技法は、アクセシビリティの観点から、こうした関係をプログラムで取得できる形にする方法を示しています。機械が文書をたどる条件を考える参考になります。
第3の層:根拠と更新の管理。女性管理職比率やScope 1・2排出量など、重要KPIを複数媒体に掲載する際は注意が必要です。対象年度や算定範囲、定義が媒体間でわずかでもズレていると、AIは正しい数値を判断できない可能性があります。どの媒体から情報を取得しても「これが社内の正本である」という根拠に必ずたどり着ける状態を目指すべきだと考えます。
PDFとHTMLは、同じ内容でも別々に点検する
PDFとHTMLでは、つまずく場所が違います。PDFはデザインを保ちやすい一方、読み順や見出しタグ、表と脚注の対応が抽出時に崩れることがあります。HTMLは構造を付けやすい一方、統合報告書、IRニュース、サステナビリティページ、FAQへ情報が分かれ、更新時期のずれが生じることがあります。
- PDF:主要な1ページから本文を選択・抽出し、見出し階層と読み順が保たれるか
- PDF:主要な1表から行・列見出し、単位、年度、注記を一緒に取り出せるか
- HTML:同じテーマのページで、タイトル、見出し、更新日、関連資料へのリンクをたどれるか
- 両媒体:同じKPIの値、定義、対象期間、注記が一致し、正本へ戻れるか
経済産業省の価値協創ガイダンス2.0や金融庁の記述情報の開示の好事例集2025は、企業と投資家の建設的な対話に向けた共通言語として、すでに不可欠な指針です。ただし、これらはあくまで「人に伝える」ための指針であり、AI可読性を直接定義するものではありません。開示において目指すべきは、人が読んで納得できる完成度を保ったまま、AIにとっても情報を拾い上げやすい形に整えることであると考えます。
IR・制作・Web・データ担当で確認範囲を分ける
最初に確認したいのは、担当表を埋めることではなく、公開物のどこで情報の関係が切れたかです。抽出結果から原因をたどり、原稿、制作、Web、データ正本のどこへ戻すかを決めます。
- IR・サステナビリティ部門:主要KPIの定義、対象範囲、注記、承認済みの値を確認する
- 制作会社:PDFのテキスト抽出順、見出しタグ、表の行列関係、注記との対応を納品前に確認する
- Web担当:HTMLの見出し階層、リンク、更新日、関連資料への導線を確認する
- データ管理部門:社内で正式とする値・定義・更新履歴と、各媒体が参照した版をたどれるようにする
たとえば、PDFとHTMLで同じKPIの値が違ったとき、Web上の値だけを上書きするのは避けます。先に正本と承認状況を確かめ、どちらの媒体を直すかを決めます。見出しや表が抽出できない場合は、原稿の階層なのか、PDFへの変換なのか、HTMLの実装なのかを切り分けます。
構造を整えても、AIの誤読をなくせるわけではありません。PDFへの変換や、利用する検索・抽出システムによって結果は変わります。だからこそ、公開前に実際のファイルで試し、どこまで取得できたかを確認記録として残します。
制作終盤のチェックではなく、企画段階から確認する
PDFが完成してから問題が見つかると、見出し階層や表を作り直し、HTMLの用語や数値も再確認することになります。企画段階で見出し構造と主要KPIを決め、原稿で用語と出典をそろえ、制作時にテキストと表の構造を保つ。公開前にはPDFとHTMLを別々に抽出して比べます。
最初に行うことは2つです。1つ目は、統合報告書の主要な1ページと1表を選び、PDFとHTMLから本文・見出し・表を取り出して比べること。2つ目は、不一致が見つかったKPIについて、社内で正式とする値、定義、対象期間、根拠資料を確認することです。
自社の統合報告書、IRサイト、ESGデータブックについて、どこからAI可読性を点検するか、数値の正本をどう確認するかを見直したい場合は、サステナブル・ラボまでご相談ください。現状の媒体構成と制作・更新フローに即して、確認範囲と改善の優先順位を整理するところからご相談いただけます。
参考資料
- W3C「PDF9: Providing headings by marking content with heading tags in PDF documents」
- W3C「PDF6: Using table elements for table markup in PDF Documents」
- 経済産業省「価値協創ガイダンス2.0」
- 金融庁「記述情報の開示の好事例集2025」最終版





