サマリー
- ダイキン工業のこれまでの環境への取り組みはトレードオフになるような財務面へのネガティブな影響はなく、ESGと財務の両方を向上させることができている。
- 特にダイキン工業はフロンを中心とした温室効果ガスの排出量削減をバリューチェーン全体で大きく進めている。
- 環境負荷低減に向けた投資額は増えているが、海外を中心に低環境負荷製品の売上を大きく伸ばしており、利益率を維持したまま売上高の成長を遂げている。
目次
1)まとめ:ESG改善と業績拡大を両立するモデルケース
2)ダイキン工業の温室効果ガス削減実績
3)どのようにしてGHGを削減したのか?
4)温室効果ガス削減による財務面の成果
1)まとめ:ESG改善と業績拡大を両立するモデルケース
日本の温室効果ガス(GHG)排出量のうち3割超は製造業を中心とした産業部門にて発生しており、多くの企業がGHG排出量削減に取り組もうとしている。一方、環境負荷低減などのESGパフォーマンスの向上に時間・コストを割くことで、そのトレードオフによって業績・財務が悪化することを懸念する声は少なくない。
国内空調大手のダイキン工業は、環境対策に大胆に取り組み、冷媒に用いられるフロン等のGHG排出量の大幅な削減を達成している。その結果、環境性能を求めるユーザーのニーズや環境規制を捉え、売上高も大きく伸ばしている。少なくともダイキン工業のケースではESGに取り組むことによる業績・財務のトレードオフは発生していない。
業界によって取り巻く環境は異なるものの、ESGに先進的に取り組むダイキン工業の財務面の成果は、これからESGへの取り組みを加速する様々な企業のモデルとなり得るだろう。
2)ダイキン工業の温室効果ガス削減実績
多くの製造業がバリューチェーンにおけるGHG排出量削減を課題に挙げ始めている中、国内空調大手のダイキン工業は、すでにGHG排出量削減で大きな成果をあげている。売上高あたりのGHG排出量(炭素強度)で見ると、同社の2016年以降の削減量は国内トップクラスである。(下表でトップにある東京電力ホールディングスは火力発電事業等を株式会社JERAに統合したことによる削減効果が大きい)
同じく建設関連製品を主力事業として扱うTOTOやLIXIL、また空調大手の一角である三菱電機のGHG排出削減と比較してもGHG削減の成果は突出しており、ダイキン工業独自の取り組みの成果であることが見て取れる。
3)どのようにしてGHGを削減したのか?
ダイキン工業はGHGの中でも特にフロン(HFCやPFC)の排出量を大きく削減した。フロンはエアコンの冷媒等に用いられるものであり、温室効果がCO2の数百~数千倍とされる。ダイキンは環境負荷の少ない冷媒の開発や、生産から流通・機器使用・メンテナンス・更新・廃棄といったのバリューチェーン全体においてフロンの回収・再生・破壊や冷媒漏れ防止などの技術開発を先進的に行い、フロン排出量の削減につなげた。
CO2については、フロンと比較すると排出量に大きな変化がないが、ダイキン工業はこの期間で売上高が約1.5倍と大きく成長しており、事業規模が拡大している点を踏まえると、CO2排出量抑制の成果が表れているといえる。CO2排出量削減への取り組みとしてダイキン工業は、自社の各生産拠点を環境性と社会性などの独自基準で評価する「グリーンハートファクトリー」活動を行っており、これにより拠点ごとの促進や進捗の見える化を行っている。また太陽光パネルの設置や、米国や欧州でのグリーン電力導入拡大も進めており、これらがグループ全体でのCO2排出量抑制に繋がっている。
4)温室効果ガス削減による財務面の成果
①売上高の成長
ダイキン工業はグループ全体でのGHG排出量削減を進めながらも、売上高の成長を続けており、日本だけでなく海外売上高の伸びが目立つ。近年の空調業界を取り巻く環境は、まず使用されるフロンを巡って、欧州において環境負荷が高いフロンガスの使用を制限する規制が導入されていることや、その他の国・地域でもフロンの管理に関する規制が導入されている。また、ユーザー自身のの環境意識が高まりや低環境負荷の商品へのニーズが増えている。このような中で、フロンの排出抑制など環境対策に先進的に取り組むダイキン工業製品の売上が各地で伸びているものと考えられる。
②利益率の維持
環境への取り組みを進める中で設備投資(CAPEX)や研究開発費が増加しているが、売上高の成長に合わせたペースとなっており、利益率を維持し増益を確保しながら今後への投資を加速することができている。ESGと業績改善を両立しているダイキン工業の取り組みは株式市場でも評価されており、株価は堅調に推移している。
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