運送業界・業種別データから見る労働環境の変化ー2024年問題を契機に変わり始める働き方ー
2024年4月から働き方改革関連法によりトラックドライバー(自動車運転業務)の時間外労働は原則として一か月45時間、一年に360時間で、特別な事情がある場合でも年960時間が上限となった。(参考:令和6年4月~適用 トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省 )
トラックドライバーの労働時間は長時間となる傾向が長年続いており、労働時間の長さが交通事故や健康問題の原因にもなってきた。
トラック運転者の年間労働時間の推移
(出典:「トラック運転者の年間労働時間の推移」統計からみるトラック運転者の仕事|自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト|厚生労働省 よりサステナブル・ラボ作成)
2024年問題にあたり運送業界はもちろんのこと、昨今は働く人すべてのウェルビーイングがますます重要になっている。
以前から労働環境の改善に取り組んでいる企業は多々あるが、近年の働き方に関するデータからはどのような傾向が見えてくるのだろうか。今回は働き方に関するデータを解析した。
業種別データから見える働き方の傾向の変化
有給取得率の業種別平均値
23業種の有給休暇取得率平均値は多くの業種でやや増加傾向であった。保険業界は2021年の時点でも64.4%と高い有給取得率を示しているが、2023年には66%まで上昇した。エネルギー業界は2021年時点の52.79%から2023年58.64%となり、5ポイント近く改善している。一方で、自動車・自動車部品業界は62.2%から59.47%と、2.73ポイント低下が見られた。
従業員一人当たりの月間残業時間の業種別平均値
従業員一人当たりの月間残業時間データを見てみると、複数業種でやや減少の傾向が見られる。ソフトウェア・サービス業界は2021年の32.06時間から2023年29.14時間へと2.92時間減少している。一方、消費者サービスの業種では、2021年34.64時間から36.9時間増加した。有給取得率では改善が見られた保険業界だが、残業時間のデータでは18.72時間から22.28時間へ増加している。
運送業の働き方データから見える傾向の変化
運送業12社の有給取得率平均値は、2021年の45%であったのに対し2023年には38%に低下している。従業員一人当たりの月間残業時間の平均値は2021年から2022年にかけて0.7ポイント改善したものの2023年にはほぼ元の数値に戻り改善傾向は見られなかった。冒頭の業種別23業種データの平均値と比較すると、運送業界は相対的に有給取得率が低く、月間残業時間が多い傾向にあるとデータから読み取ることができる。
一方で、フレックスタイムやテレワーク等、個々の従業員がより働きやすくなる環境が整えられているデータも確認することができる。例えば、短時間勤務ポリシーは2021年時点で0だったが2023年時点では全社導入されている。
セイノーホールディングスの取り組み紹介
2024年問題や少子高齢化による人手不足など深刻化する運送業界の課題に直面するなか、その解決に向けて企業の垣根を超えた取り組みを重視するセイノーグループは、2024年2月~3月にかけて日本郵便グループと協働し、幹線輸送(集荷拠点から配達拠点への長距離輸送)の効率を高めるための共同運行トライアルを一部地域で実施した。
<トライアルの内容>
・ 隣接する拠点を活用した荷物の積み合わせ
・ 自社内で積載調整を行っていた荷物の融通
・ 積載率の下がる土日の荷物の集約など
トライアルの結果、既存の配達日数を変更することなく、トラック台数を削減するなどの効果が期待できることが確認できるなど、課題解決に向けた積極的なトライアルによる成果を生んでいる。
この他にも、長距離運行に対する施策として、600Kmを超える長距離便の40%を鉄道などのトラックを使わない輸送に切り替えることで、トラックドライバーの拘束時間および負担軽減と輸送によるCO2削減を図るなどの取り組みを実施している。
(参考:「セイノーホールディングスと日本郵便グループ幹線輸送の共同運行トライアルを実施」 2024年03月28日|セイノーホールディングス、「2024年問題 対策例と西濃運輸の取り組み紹介」|セイノーホールディングス ロジスティクス事業部)
まとめ
トラックドライバーの労働時間制限による輸送能力の低下が懸念される場面もあるが、利便性や経済性の「強さ」を追い求めるだけでは社会の歪みが大きくなる一方だろう。
トラックドライバーの労働環境の改善は、人や環境にやさしい社会づくりに欠かせない取り組みであるが、もはや物流は人々の生活や仕事にとってなくてはならない社会インフラであり、2024年問題の解決には運送業界だけでなくすべての人の働き方や生活のありかたを見直す必要があるだろう。
今後は、2024年の働き方改革関連法改正後、どのような変化があるのかを引き続きウォッチし、働き方に関するさらなるデータが積み上がることに期待したい。