ESGデータの収集・管理を任されている企業の多くが、最初はExcelで運用を始めます。
一方で、グループ会社・拠点が増えたり、サプライヤーからのデータ回収・集計が始まったり、監査・保証を意識し始めた瞬間に、Excel運用は急にやりづさが増します。
ESGデータの収集・管理を任されている企業の多くが、最初はExcelで運用を始めます。
本記事では、「ExcelでのESGデータ管理はどこで限界が来るのか」を整理したうえで、ESGデータ管理ソフト(以下、ソフト)導入で何が変わるかや、ソフト選定の評価軸まで、実務担当者の視点でまとめています。
Excel運用が限界になるESGデータ管理のリアル
ESGデータ管理が「Excelで回らなくなる」典型は、だいたい次のどれか(または複合)です。
回収先が増える:回収先が増える:グループ会社、国内外拠点、部門、サプライヤーが増え、データ回収・集計の対象が増加する
指標が増える:GHGだけでなく、エネルギー、水、廃棄物、人権、安全衛生、コンプラなどに広がる
締切と差し戻しが増える:開示や社内報告のスケジュールがタイトになり、差戻しの往復が増える
統制が求められる:「誰がいつどの値を決めたのか」「根拠は何か」「承認は通っているか」が問われ始める
Excelで運用していると、最初は「ファイルを回収して集計する」だけで済んでいたはずが、規模が大きくなるほど、作業の中心が「管理」に移っていきます。
つまり、数値を作ることよりも、版管理・督促・差戻し・証跡整理に時間を取られ、担当者の負荷が上がっていくのです。
ESGデータ管理の全体プロセス(収集~監査対応)
ソフト選定の前に、まずESGデータ管理業務の全体像を確認しておくと軸がブレません。ESGデータ管理業務は、おもに次の6つでできています。
指標定義:何を、どの境界で、どの単位で、どの頻度で集めるか(算定ロジック含む)
収集:入力・取込・連携(社内、グループ、取引先から集める)
検証:入力ミスや異常値の検知、整合性チェック、差戻し
承認:責任者の承認、版管理、確定
集計・開示:連結、セグメント集計、開示資料への落とし込み
証跡管理:根拠資料、変更履歴、承認記録を残し、必要時に提示できる状態にする
Excel運用で詰まりやすいのは、2〜6の「運用・統制」の部分です。特にグループ企業やサプライヤー企業のESGデータまで集める必要がある場合、収集の“量”が増えるだけでなく、関係者も増えるため、統一ルールと統制の仕組みがしっかりしていないと、ESGデータ管理全体が崩れやすくなります。
Excel管理の強み(実はよい面もある)
ExcelによるESGデータ管理には強みもあります。
初期コストが低い:すぐ始められる
柔軟性が高い:項目を増やす、計算式を変える、加工するが容易
社内に浸透している:教育コストが低い
試行錯誤に向く:指標定義が固まる前の段階に強い
なので「Excel管理が絶対に適切でない」わけではありません。
むしろ、次の条件ならExcel中心でも合理的です。
対象範囲が小さい(拠点・会社が少ない、サプライヤーからのデータ回収・集計なし)
指標定義がまだ頻繁に変わる(整備中で固まっていない)
監査・保証や厳格な統制が当面は不要
まずは小さく始めて、業務プロセスを固めたい
問題は、Excelの強みを超えるスケールと統制ニーズが出てきたときです。
Excel管理で起きる5つの事故
ExcelによるESGデータ管理が限界に来たときに起きる典型的な「事故」を5つにまとめます。いま既に1つでも頻発しているなら、ソフト検討のタイミングが近いサインです。
版数管理ができていない:「どれが最新版?」が分からない。誰かが修正したファイルが別ルートで回ってきて、差分が追えず、最終的に担当者の記憶が頼り
転記・数式ミス:転記で桁がずれる、単位が混ざる、数式が壊れる。データの回収・集計対象が増えるほど、ミスは増え、チェック工数が膨張すしてしまう。
算定ロジックの不統一:同じ指標のはずなのに、拠点ごとに境界や計算方法が違う。結果として、連結しても意味が薄い数字になるってしまう。
証跡が残らない:根拠資料がフォルダやメールに散在し、「この数字は何から来た?」に即答できない。変更履歴も追えなくなっている。
権限統制が弱い:グループ会社や取引先に配るとき、閲覧・編集の範囲が切れず、過剰共有か、運用の手戻りが起きる。
このようなケースは「Excelの使い方が悪い」というより、Excelというツールが「データ統制の仕組み」を提供しないことに由来します。ここにソフト導入することの価値があります。
管理ソフトで何が変わる?比較すべき10の観点
ESGデータの収集・管理の範囲が、自社だけでなく、グループ企業やサプライヤー企業までおよぶ場合は、ESGデータ管理ソフトに期待すべき機能は「入力の便利さ」に加えて、「権限・ワークフロー・証跡」がポイントとなってきます。
以下は、Excelとソフトを比較するための10観点です。

選定ポイント10選
ESG管理ソフトの選定で失敗しないコツは、「機能の有無」を聞くだけではなく、「制約・上限・追加費用・設定自由度」まで確認しておくことです。ESG管理ソフトの導入後に起こる困りごとは、たいていこの4つの見落としから始まります。
以下は、比較しやすい聞き方に整えたRFP質問10個です。
RFP質問(10個)
権限分離(グループ/拠点/取引先/指標/年度/役割):取引先は「自社提出分のみ」閲覧できるか?権限はどの粒度で切れるか?
データ回収・集計運用(依頼/督促/差戻し/期限):依頼配信、未回答の自動督促、差戻し、期限管理は標準機能か?取引先側の負担は?
証跡(項目単位ログ/根拠紐づけ/監査出力):誰がいつ何を変更したか追えるか?根拠はどの粒度で紐づけられるか?監査用に一括出力できるか?
ワークフロー(承認段数/柔軟性/進捗可視化):承認は何段まで?条件分岐は?どこで止まっているかを会社/取引先別に見えるか?
データ品質(バリデーション/異常検知/自社設定):入力制約、前年比、閾値、整合性チェックはあるか?ルールを自社で設定・変更できるか?
収集方式(フォーム/CSV/API)と制約(件数上限/同時アクセス):取込上限、同時アクセス上限、テンプレ仕様は?大量回収を前提に耐えられるか?
指標定義・マスタ管理(追加/変更/履歴/過年度影響):指標追加や定義変更は自社でできるか?過年度への影響や履歴はどう扱うか?
集計・連結(階層/ロールアップ/按分/除外/セグメント):グループ階層を表現できるか?按分や除外など連結ルールに対応できるか?
連携(ERP/購買/電力等:方式・実績・変更容易性):連携方式は?実績は?マッピング変更は誰がどれくらいの工数でできるか?
費用・契約・データ持ち出し(課金/追加費用/解約時):課金要素(取引先アカウント含む)、追加費用のトリガー、解約時のデータエクスポート条件は明確か?
ESG管理ソフトで「できること」だけでなく、上限(件数/同時アクセス)、制約(権限の切れ方)、追加費用が出る条件、設定変更を自社でできる範囲まで、必ず具体化してもらいましょう。
導入メリットを“担当者の成果”に変換する
ESG管理ソフト導入のメリットを社内で説明するとき、「便利になります」「効率化します」だけだと稟議が通りにくいケースがあります。しっかり評価され、会社としてメリットがあることだと納得される理由を整理します。
工数削減(担当者の時間を戻す)
・督促・差戻し・進捗管理が仕組み化され、データ回収業務の管理コストが減る
・集計が標準化され、月末・期末の残業が減る
・担当者が変わっても運用が回り、属人化リスクが下がる品質向上(手戻りを減らす)
・入力制約や異常値検知により、ミスを入口で潰せる
・指標定義が一元管理され、解釈ブレが減る
・開示前の“突貫チェック”が減る統制・監査対応(将来コストを下げる)
・変更履歴・根拠・承認の証跡が残り、「なぜこの数字?」に即答できる
・監査対応で資料探しに追われず、証跡をパックで提示できる
このように整理すると、ソフトの導入は単なる効率化ではなく、「ESGデータのガバナンス強化」として説明しやすくなります。
デメリットと落とし穴(導入が失敗する理由)
ESG管理ツールを導入すれば自動的にすべてうまくいくわけではありません。失敗パターンはだいたい決まっています。
落とし穴1:指標定義が未整理のまま導入する:定義・境界・責任者が曖昧な状態で入れると、ソフト上で混乱が“固定化”します。最低限、「指標の定義書」と「データオーナー(責任部門)」は決めてから進めましょう。
落とし穴2:入力が重くなり、現場・取引先が離脱する:「証跡を残したい」気持ちが強すぎて、入力項目や添付を増やしすぎるとデータの回収率が落ちてしまいます。特にサプライヤーからのデータ回収では相手は自社社員ではないため、入力体験の悪さ=回収率低下に直結します。
落とし穴3:二重管理期間が想定以上に長い:移行期はExcelとソフトが並走しがちです。過年度データの扱い(入れる/入れない、根拠はどうする)を決めずに始めると、担当者が二重に苦しみます。
落とし穴4:追加費用とロックイン:「設定変更はベンダー作業」「取引先アカウント追加で課金」「データ持ち出しが難しい」など、後から効いてきます。RFPで追加費用のトリガーと解約時エクスポートは必ず確認しましょう。
ESG管理ツール導入か/Excel継続かの条件チェック
以下は、判断に迷ったときのチェックリストです。
Yesが6つ以上なら、ソフト導入の合理性が高いと考えられます。
ESG管理ツールを導入すべき条件(Yes/No)
グループ会社・拠点が複数あり、回収対象が増えている
サプライヤーからのデータ回収・集計があり、件数が多い/増える見込み
指標が年々増えている(E/S/G横断)
差戻し・督促・進捗管理に毎月数日取られる
単位ミス/桁ミス/転記ミスが後から見つかる
変更履歴(誰がいつ何を変えたか)が追えない
根拠資料が散在している
承認の記録が残っていない/弱い
取引先やグループ会社ごとに閲覧・編集範囲を切れない
連結集計が属人化している
Excel継続でもよい条件
対象範囲が小さく、回収先が少ない
指標定義が固まっておらず、試行錯誤が中心
統制・監査対応の要求が当面は小さい
さいごに
ESGデータ管理は、頑張りで回すほど担当者の負荷が積み上がり、規模が大きくなるほど「Excelが悪い」のではなく「仕組みが足りない」ことが原因で行き詰ります。特にグループ企業やサプライヤー企業にわたる運用では、入力のしやすさ以上に、権限・ワークフロー・証跡をどう設計するかが成否を分けます。
ソフト導入はゴールではありません。目的は、ESGデータを「効率よく集められる」だけでなく、説明できる(根拠が追える)・再現できる(プロセスが回る)状態にすることです。データ回収・集計に追われる状態から、ESGデータを経営に活かせる状態へ進む転換点になることをめざしましょう。
本記事がESG管理ツールの導入検討されている方のお役に立てば幸いです。
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