CSRD や SSBJ によるサステナビリティ開示が本格化するなか、多くの企業で課題になるのが 「海外拠点からのデータ収集」です。
言語・制度・IT環境が異なる海外拠点では、国内とは違う壁に直面しやすく、ESG担当者の負担も大きくなります。
本稿では、最新情報をもとに海外拠点データ収集のポイント・よくある課題・実務的な対策を整理します。
1.CSRD/SSBJはいま何を求めているのか
CSRD(EU)
CSRDは開示対象が大幅に拡大し、バリューチェーン全体の情報 を求めています。EU域外企業でも、EUに一定規模の拠点・売上がある場合は対象となるため、日本企業でも早期の準備が必要です。
特に「環境データ(Scope1〜3)」「従業員・人権」「ガバナンス情報」など、海外子会社の実績データが不可欠 になります。
SSBJ(日本)
SSBJは2025年3月にユニバーサル基準・テーマ別基準を公表し、段階的に適用が進む予定です。日本基準とはいえ、上場企業の多くが海外拠点を持つため、開示に必要な情報はグループ全体の整備が前提 となります。
2.海外拠点のデータ収集──4つの基本ステップ
STEP 1:対象拠点とデータ範囲の明確化
海外子会社・支社・工場・合弁先など、対象拠点を一覧化
会計年度・換算ルール(排出係数・単位・為替)を揃えておく
財務連結上の子会社だけでなく、実質支配力のある関連会社を含め、すべての海外拠点をリストアップします。そのうえで重要性の判断をおこないます。
「すべての拠点から詳細データを取るのは現実的ではない」場合、SSBJ基準等に基づき、重要性(マテリアリティ)の観点から対象範囲を決定します(例:排出量全体の95%をカバーする拠点を対象とし、残りは推定を用いる等)。
ただし、除外理由の説明責任が生じる点に注意が必要です。
最初の“前提整理”が甘いと、後工程の負荷が一気に増すのでしっかり整理しましょう。
STEP 2:データ収集フローのデジタル化と責任体制の設定
全拠点共通の入力テンプレート(Excel/クラウド型ツール)を用意する
各拠点に「データ提供担当者」を指名してもらう
海外を含めたデータ収集では、Excelのリレー形式では監査に耐えられない可能性が高いです。クラウド型のESGデータ収集プラットフォームの導入を検討するのも良案です。
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STEP 3:収集プロセスを運用する
収集スケジュール(例:年度終了+2か月以内)を明確化
多言語マニュアル、オンライン説明会などで拠点をサポート
本社側で提出データをレビューし、異常値や抜け漏れをチェック
早めに“提出の癖づけ”をすることで、翌年以降の負荷が大きく下がります。
STEP 4:集約・統合・開示につなげる
全拠点データを統合し、比較・分析
マテリアリティ分析・リスク管理とも連動
将来のアシュアランス(保証)に備えて証跡・原本を保管
CSRDでも SSBJ でも、データの追跡可能性(トレーサビリティ) が重要視されています。
3.海外拠点で“起きがちな”課題とその対策
課題①:必要データが存在しない/取得できない
小規模拠点・発展途上地域では「そもそも数字が出ていない」ことが多い。
【対策】
まずは取得可能な“最低限のベースライン”から開始
取得不可項目には合理的な推定方法を合意しておく
拠点ごとのギャップを可視化し、改善ロードマップを作成
課題②:定義がバラバラで比較できない
単位・排出係数・会計基準、現地語の解釈など、海外拠点は“ブレ”が出がち。
【対策】
収集対象となるデータ項目、定義書を作る。「再生可能エネルギーとは何か」「廃棄物のリサイクル率はどう計算するか」といった定義を統一した「データ収集マニュアル(英語版)」を整備することで、解釈のブレを未然に防ぐ。
各国で異なる使用単位を自動換算できるツールを用意(例:現地はガロンやマイル、現地通貨で入力し、システム側で自動的にトン、km、円に換算される仕組み)を用意することで、現地の負担と計算ミスを減らすことができます。
提出時のチェックリストを設定(単位/期間/基準の確認)
必要に応じて現地語マニュアルも用意
課題③:提出が遅れる
国内拠点に比べ、海外は提出遅延の頻度が高い傾向。
【対策】
提出期限を明文化し、経営陣からの周知も活用
提出前のセルフチェック(入力漏れ防止)を義務付け
遅延拠点には個別フォロー・教育・テンプレート改善を実施
課題④:証跡・信頼性が不十分で監査対応できない
CSRD・SSBJとも、今後は第三者保証が求められる可能性が高い。
【対策】
「誰が/いつ/どの原データを基に」集計したかログ管理
原本(請求書・計算書等)の保管ルールを統一
証跡の必須化:数値入力時に、必ず請求書や検針票のPDFを添付させる運用を定着させ、「証跡なきデータは受領しない」という文化を作る。
本社レビュー→承認フローを構築
4.拠点タイプ別のよくある特徴と留意点
製造拠点
データ量は多いが、排出源が複雑
電力・燃料・蒸気・廃棄物など項目が多いため、テンプレ整備が重要
営業・販売拠点
データ量が少なくても、出張・移動・物流などScope3がポイント
取得可能な項目を明確化しておくことが鍵
小規模拠点・合弁先
実務リソースが少なく、推定値からスタートするケース多い
インフラ整備よりも“現地負担を増やさない工夫”が重要
5.海外拠点データを“戦略的に活かす”視点
単にデータを集めて報告するというのではなく、海外拠点データを戦略的に活用する視点も重要です。
グループ全体視点のKPI・ベンチマーキング:海外拠点のデータを本社データと比較し、「どの地域・拠点が改善余地があるか」「先行指標は何か」を可視化する。
改善・削減活動とリンクさせる:例えば海外製造拠点でエネルギー使用効率が低ければ、「改善施策→数値取得→開示」の流れを設計。開示が単なる義務ではなく、改善サイクルの一部とすると定着性が高まる。
ステークホルダー対応・投資家対話:海外拠点を含むグローバルなサステナビリティ体制を整えていることを、投資家・金融機関・取引先に説明可能にしておく。例えば、CSRD/SSBJ開示準備を進めているという点も評価対象となる。
技術・デジタル化の活用:拠点データ取得を紙・Excelだけで行うのではなく、クラウドプラットフォーム・自動集計・API連携なども視野に入れることで、将来の拡張・アシュアランス対応が容易になる。
マテリアリティ&リスクマネジメントとの統合:海外拠点から得たデータをマテリアリティ分析/リスクマネジメントに活用し、「この拠点でこのリスクが発生しうる」「この指標が将来の機会につながる」といった示唆を持つ。
6.まとめ
海外拠点のデータ収集は、CSRD・SSBJ対応という視点で見たとき、単なる“やらなければならない作業”ではなく、グローバル展開する企業にとって サステナビリティ開示を通じて戦略的に活かせる資産でもあります。
ただし、実務としては「対象範囲の整理」「データ定義・責任体制の明確化」「収集ルールと仕組みの構築」「レビュー・統合・分析」「将来の保証対応を見据えた証跡整備」が鍵となります。
開示担当者・サステナビリティ推進部としては、まず「海外拠点の現状把握」「どこがデータフロー上のボトルネックか」「改善ロードマップをどう設計するか」を早期に着手することをお勧めします。
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