1、業界別の女性労働者割合:トップはヘルスケア機器・サービス業界
図1:業界別女性労働者割合および各業界の女性労働者割合トップ企業の割合
出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)
女性労働者割合の平均を業界別に見るとトップは保険業界(52.3%)であった。業界別の女性労働者割合最低は公益事業(16.0%)、全体平均は30.6%であった
保険業界における女性労働者割合が高い理由の仮説はいくつか考えられる。
国内生命保険会社で女性営業職が多い背景は、第二次世界大戦後まで遡る。戦後復興が進む日本は労働力が必要であったが、大戦で多くの男性が命を落とし働き手が不足していた。一方、戦争未亡人となり女手一つで子どもを育てなければならない女性が多く存在していた。その時代に仕事を必要としていた女性の受け皿となったのが保険会社で、いわゆる生保レディとして多くの女性が活躍することとなった。家族の大黒柱を失った女性は保険の価値を理解しているため、保険営業の職に向いていたとも考えられる。
また、女性のコミュニケーション能力の高さが保険営業にフィットしている可能性が考えられる。人生設計やライフプランに関わる保険商品は、顧客の家庭の状況やニーズにあわせ将来の不安やリスクに対する提案を行うため、ヒアリングスキルが重要である。保険会社の成長には聞く力とニーズを的確に把握する力が欠かせないため、コミュニケーション能力の高い女性が活躍しやすい場であると考えられる。
2、女性労働者割合トップ企業ランキング
図2:女性労働者割合トップ企業ランキング 上位20社
出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)
1位:ソラスト
1965年に日本初の医療事務教育機関として創業し、病院経営支援、介護、保育の分野に事業を広げ躍進。従業員数(常勤及び非常勤勤務者)の90%(2021FY90.0%、2022FYは89.5%)が女性である同社は創業当時から女性の活躍推進を重要テーマに掲げ、長年積極的に取り組んでいる。2021年に「えるぼし認定」を取得し、現在は1年以内の短期離職率(専門職)25%、管理職に占める女性割合60%、女性執行役員のさらなる登用を計るとともに、一層のダイバーシティ推進を目指し不妊治療や性別適合手術、ホルモン治療のための特別休暇制度を導入している。(参考資料:株式会社ソラスト | サステナビリティ トップ、業績・財務ハイライト、第55期 有価証券報告書)
2位:T&Dホールディングス
太陽生命、大同生命、T&Dフィナンシャル生命の生命保険事業を中心に関連事業から構成される。女性労働者割合は81.32%(2022年3月末)、そのうち営業職員に占める女性割合は97%と高水準。2011年からT&Dホールディングスと生命保険3社の女性職員からなるワーキンググループを設置し、グループ合同セミナー等を実施。以前からグループ横断で女性活躍の推進に取り組んできた実績等がある。育児、介護等との各種両立支援制度を導入するとともに、グループ協働で総労働時間の縮減や男性の育児休業取得の促進にも取り組み、誰もが働きがいを持って活躍できる職場づくりを推進する。(参考資料:株式会社T&Dホールディングス | サステナビリティレポート2023)
3位:アイロムグループ
再生医療・遺伝子治療の領域に強みを持つ医療関連企業。女性労働者割合は79.90%(2022年3月期)。性別や国籍、時間的制約の有無等に関係なく、経験・能力・多様な視点や価値観を持つ人材を積極採用するとともに、高い専門性を持つ人材の育成に取り組む。フレックスタイム制度、短時間勤務制度、コロナ禍での在宅勤務の活用など働きやすい環境づくりを推進するとともに、女性役員・女性管理職・外国籍管理職の存在等、意思決定プロセスに関わるポジションにおける多様性の確保にも意欲的。(参考資料:株式会社アイロムグループ | 第26期 有価証券報告書)
9位:ハニーズホールディングス
ハニーズホールディングスはレディースファッションを提供する企画・卸企業、女性従業員割合は75%、国内セクター女性正社員比率は96%(2023年5月時点)。小学校卒業時点まで最大3時間の勤務時間短縮を認める制度や、3歳未満の子どもを保育施設に預けた場合の保育料補助制度、1時間単位での有給取得制度などを整備し、ワークライフバランスの充実を図る。(参考資料:株式会社ハニーズホールディングス | サステナビリティ、第45期 有価証券報告書)
3、業界平均に対する比率が高い企業ランキング
図3は業界平均に対する比率が高い企業のランキングだ。
1位信越ポリマー、2位ミネベアミツミは3倍をいずれも超えており、10位までをほぼ2.3倍が占める。
また、上位20社のうち、6社が資本財企業が占める結果となった。もともと資本財業界は業界平均18.94%と全体平均(30.6%)よりも低い割合にも関わらず、この6社は全体平均を超え、女性労働者の割合は各社40%以上となっている。
資本財企業はBtoBビジネスが中心で大規模かつ専門的である。資本財企業はインフレ時にその上昇分を比較的価格に転嫁しやすく、今後のさらなるインフレを見越した企業が設備投資に動きやすいという面で、市場がインフレに動き出したときに恩恵を受けやすい特徴がある。業界平均に対する女性労働者割合が高い資本財企業は海外で事業展開している企業が多く、海外事業所において女性労働者数が多い傾向がみられる。
図3:女性労働者割合の業界平均に対する比率が高い企業ランキング 上位20社
出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)
1位の信越ポリマーにも着目したい。同社は、シリコーンゴムや各種プラスチック、導電性素材をキーマテリアルとし、独創的な配合・成形加工を得意とする樹脂加工メーカーで、自動車、情報機器関連から半導体、建設関連に至る幅広い分野の製品を製造・販売する。海外15拠点に展開、海外売上比率は52%(2023年3月)。子が満3歳に達する日までとする育児休業制度や、小学校3年生までの育児短時間勤務など、法を上回る制度を整備する。子の看護休暇は時間単位の有給休暇取得が可能。有効期限の切れた年休権を積み立て、自身の療養や家族の看護に使用可能な積立年休権制度も取り入れ、柔軟な働き方の実現に取り組んでいる。
男性のライフ・ワーク・バランス両立支援にも積極的で、出産時の夫に対する特別休暇(有給)を付与。配偶者が出産した男性労働者数に対して育児休業等をした男性労働者数の割合は77%、平均取得日数は47.7日。
ダイバーシティ&インクルージョンの観点で、女性従業員とともに、男性従業員への取り組みも積極的に行っている点は注目すべきポイントである。(参考資料:信越ポリマー株式会社 | サステナビリティレポート2023)
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