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Case Study

TNFD開示の加速によって、企業のESGパフォーマンスに変化は起こりうるか?

結論

  1. TNFDの枠組みに沿った自然関連データの開示は、JPXプライム市場に上場する企業の中ではまだ限定的である。

  2. TNFDの枠組みの適用には業界の重要性(Industry Materiality)が存在する。すなわち、企業が属するセクターによって、自然関連データの開示に対する関心度が異なる可能性が、CDPスコアより明らかになった。

  3. TCFDの開始以降、過去数年間における気候変動関連データ開示が増加したことは、TNFD開始後、プライム市場における自然関連データの開示が将来的に増加する可能性を示唆している。

日本市場におけるTNFD

2023年はTNFD開示の適用が加速している。3月に公表されたTNFD ver4のフレームワークでは、自然関連のリスクと機会、影響と依存関係に関する一連のグローバルな中核指標と追加開示指標が提案された。日本では、KDDI、NTT、花王、三井住友銀行といったプライム市場の主要企業が、TNFD報告書を公表しはじめた。

そこで本稿では、日本市場におけるTNFDの枠組みに沿った自然関連データ開示の現状と今後の展望を調査・把握しようとしている。

表1は、プライム市場に上場している企業における依存と影響に関する、TNFD指標のデータ[1]開示率を詳細に示したものである。これらの指標のトピックは、気候変動に関するものを除けば、非GHGの大気汚染物質、水質汚濁物質、固形廃棄物、水使用量に関連するものばかりである。そして指標の開示率は2%から24%である。上記のような指標のデータの欠如は、TNFDの枠組みに沿った自然資本関連データの開示がまだ限定であることを示している。

業種間のデータ開示率のばらつきも表 1 から見てとれる。プライム市場に上場している企業をGICS (世界産業分類基準)セクター別で見ると、素材、エネルギーなどのセクターは全体的にデータ開示率が比較的高いことがわかる。一般に、金融や通信サービスのようなセクターでは、データ開示率は全セクターの平均水準を大きく下回っている。一般消費財、資本財、生活必需品、不動産も、本稿で調査した開示指標の開示率が比較的低い。

表1.TNFD枠組みの指標の相対的開示率
出典:TERRAST(非財務データプラットフォーム)
注釈: JPX Prime Market上場企業1800社以上。データは、企業が開示する複数の公式書類(コーポレートレポート、サステナビリティブック等)より収集。

CDPの自然関連スコアを用いた仮説検証

TNFD枠組みの適用に関して我々が立てた仮説は、重要視するマテリアリティは業種によって異なるということである。企業がTNFD枠組みを適用する動機は、属するセクターによって異なる可能性がある。そこで、CDPの自然関連スコアを用いて仮説の検証を行った。自然関連に関する企業のパフォーマンスをスコア化して提供する著名な格付けベンダーであるCDPが示すマテリアリティは代表的なものであり、開示の実態を把握する上で、少なくともある程度は参考になると考えられ、このような検証に適している。

図1は、2022年にCDP自然環境関連スコアを持つ企業の比率をGICS基準で算出した結果を示している。基本的には、CDP自然環境関連スコアを持つ企業の構成比は、プライム市場の構成比と一致していない。その中でも、「Water Security(水)」においては、市場構成比との違いが比較的小さく見られている。この点は、「水」トピックが各セクターの間で他トピックよりも重要視されていると考えられる。

図1.2022年にCDPスコアを有する企業のセクター別比率(Fスコアを含む)

 

さらに、セクターによっては、CDPスコアを持つ企業の比率がプライム市場全体の比率を上回っている。例えば、生活必需品は「Soy(大豆)」と「Palm oil(パーム油)」のスコアを持つ企業の中で35%以上を占めるが、プライム市場全体では10%程度に過ぎない。このようなギャップは一般消費財・サービスでも見られる。この点は、これらのセクターにとって自然関連トピックの重要性が高いことを示唆しており、他セクターよりもTNFD枠組みに沿って自然関連データの開示に熱心であると考えられる。

他のセクターでは、逆のギャップが存在する。例えば、情報技術は、「Timber(木材)」「大豆」「パーム油」のスコアを持つ企業群で約1%しか占めていないが、プライム市場では15%以上の企業がこのセクターに属している。同様の結果は、通信サービスや金融でも見られる。これは、上記のセクターにとって、現在の自然関連の問題は重要なトピックである可能性が低いことを示唆している。したがって、これらのセクターの企業は、自然関連データの開示にTNFDの枠組みを適用することに比較的関心が低いのかもしれない。

データ開示はまだ限定的であるが、CDPのスコア付け企業数は近年増加傾向にある(図2)。TCFD発足後、気候変動関連データの開示が増加した傾向を踏まえると、今後、TNFDの正式発足に伴い、プライム市場参加企業の自然関連データの充実が進む可能性があると考えられる。

図2. CDPスコアを付与された東証プライム市場上場企業数 (2018~2022年)

自然関連の指標は投資家にとって重要である

生物多様性や自然関連のトピックは、企業のESGパフォーマンスやリスクと機会へのエクスポージャーに影響を与えるため、投資家にとって重要である。自然や生物多様性に投資することで、投資家は自然資本の保全や人間の福利の向上に貢献することができる。また、ポートフォリオのパフォーマンスを向上させ、グローバルな持続可能性の目標に投資先を合わせることもできる。今後は、特定の業界における自然関連データ開示の現状と展望について、先駆的な事例を具体的に調査することでもう少し掘り下げてみたい。


[1] 本稿では、ver4枠組みに公表されている指標と類似の他指標も選出・使用

 

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