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【インパクト評価】スマートグリッドの敷設

サマリー
  • 2050年までにカーボンニュートラルな社会の実現に向けて、スマートグリッドの普及は不可欠。国内エネルギーネットワーク・統合システム関連市場は、1兆円程度から2030年度までに1.7兆円まで急拡大する見込み。
  • 国内大手は、総合電機メーカーを中心に関連技術やシステムを積極的に展開。また、スマートメーターなどのニッチな市場では、一部の中堅企業も存在感を発揮し、ソリューションビジネスの拡大、海外展開にも成功している。
  • 中小企業もスマートグリッド化の恩恵を受ける見込み。特に、自社製品をEMSと統合して顧客に新たな価値を提供したり、エネルギー監査、コンサルティング、ソフトウェアサービス等の提供によって差別化が図れる。

目次

1)「スマートグリッドの敷設」とは:国内の取り組み

2)スマートグリッド関連技術を持つリーディングカンパニー

3)スマートグリッド、EMS分野における中小企業のメリット

4)中小企業向けの補助金

 

1)「スマートグリッドの敷設」とは:国内の取り組み

今、日本はスマートグリッドの研究開発や普及に積極的で、2025年までには世界最大規模のスマートグリッド市場になることが期待されている。今回は、そんな日本におけるスマートグリッドの最新動向について紹介しよう。

スマートグリッドとは、電力の需要と供給をバランス良く調整するために、IT技術を活用した電力網のこと。日本では、地震や災害に強いインフラを構築するために、スマートグリッドの普及が進んでいる。

日本におけるスマートグリッド開発の主な原動力の一つは、日本のエネルギー問題である。日本は化石燃料の輸入に大きく依存しており、2011年の福島原発事故では、日本のエネルギーインフラの脆弱性が浮き彫りとなった。政府は、2050年までにカーボンニュートラルな社会を実現するという目標を掲げており、スマートグリッド技術はこの目標を達成するための重要な要素であると考えられている。

また、スマートグリッドは、従来の電力網にIT技術を組み合わせることで、より効率的で持続可能なエネルギー網を実現するための技術である。従来の電力網では、電力の発電、送電、配電が単純な直列回路の形で行われていた。しかし、スマートグリッドでは、IT技術を活用して、より複雑なネットワークを構築し、電力の需要と供給のバランスを効率よく調整することができる。

他にも、スマートグリッドには、次のような特徴がある。

  • 電力の需要と供給をリアルタイムで調整することができる。
  • 電力の品質を高めることができる。
  • 再生可能エネルギーの利用を促進することができる。
  • 消費者が電力の使用状況を把握し、節電することができる。
  • システム全体のセキュリティを確保することができる。

スマートグリッドには、多くの技術が使用されている。例えば、通信技術、制御技術、センサ技術、エネルギー貯蔵技術などが挙げられる。これらの技術を組み合わせることで、より効率的で持続可能なエネルギー網を構築することができるのだ。特に、電力の消費予想を立てるためのEMS(Energy Management System)やスマートメーターはスマートグリッドに欠かせない技術として注目されている。EMSは、家庭やビルなどのエネルギー使用状況を監視・管理することができ、エネルギーの無駄を削減し、効率的なエネルギー使用を実現することができる。スマートメーターは、電力会社が消費電力量をリアルタイムで監視・管理でき、電力の需要と供給を調整することができる。

図表1:エネルギーマネジメントの「基本モデル」
出所:日立製作所

スマートグリッド市場は今後も拡大が見込まれており、多くの企業が参入している。さらに、スマートグリッドの技術を活用したビジネスモデルも増えてきており、今後の日本の経済成長にも大きく貢献することが期待されている。富士経済の予想による、EMS関連国内市場(スマートグリッド関連製品・サービスも含まれる)は2030年1.7兆円に達する見込みだ。

図表2:国内エネルギーネットワーク・統合システム関連市場の予想
出所:富士経済グループ

特に、日本では東日本大震災以降、電力自由化や再生可能エネルギーの導入が進んでおり、スマートグリッドの需要が高まっている。また、5Gサービスの展開やIoT技術の発展に伴い、高速・大容量・低遅延といった通信環境ニーズの増加も追い風となっている。スマートグリッド関連事業を持つ企業は、これらの機会を捉えて事業を拡大し、投資家からの評価を高めることができる。

といったように、現在、日本のスマートグリッド市場は急速に成長しており、企業だけでなく政府もスマートグリッドの研究開発や普及促進のために積極的に取り組んでいる。しかし、スマートグリッドには課題も残っている。例えば、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーの利用が増えるにつれて、電力の需要と供給のバランスを取ることが難しくなるのだ。また、スマートグリッドのインフラの整備には多額の投資が必要であり、その点も課題となっている。

 

2)スマートグリッド関連技術を持つリーディングカンパニー

スマートグリッド技術の発展は、日本の株式市場に大きな影響を与える可能性がある。特に、スマートグリッド技術の開発・導入に携わる企業への投資である。スマートメーターやその他のグリッド・インフラ・コンポーネントの製造がチャンスとなる分野の一つである。東芝や日立などの企業は、日本市場向けに先進的なスマートメーターを開発しており、これらの企業は、スマートグリッド技術の導入拡大によって恩恵を受ける可能性があるだろう。

また、エネルギー貯蔵システムの開発に携わる企業への投資機会もある。日本で再生可能エネルギーが普及するにつれ、エネルギー貯蔵システムのニーズは高まるだろう。パナソニックやNECなどの企業は、家庭用や業務用の蓄電システムを開発しており、スマートグリッド技術の導入が進むにつれて、これらの需要はさらに増加すると思われる。

以下に、各企業の具体的な事例を紹介する。

フジクラ(5803):産業用電線や光ファイバの製造・販売が中心

世界トップクラスの技術力とシェアを持っている。5GやIoTなどの次世代通信技術に対応した光通信ソリューションを提供しているほか、高速・大容量・低遅延の通信を実現する28GHz帯のミリ波無線通信モジュールも開発している。また、スマートグリッドに必要な高性能・高信頼性・低コストの電力伝送ケーブルや変圧器などの製品も展開している。

日立製作所(6501):社会インフラから情報通信まで幅広い事業を展開。スマートグリッドでは、送電網や変電所、蓄電池などのシステム開発が強み。

再生可能エネルギーの導入や電力需要の変化に対応したスマートグリッドソリューションを提供。ハワイ州マウイ島でのスマートグリッド実証事業において、島しょ域全体の電力システムを最適化する技術を開発・実証した。DX×GXのマイクログリッド型エネルギー供給サービスも開始し、電力・熱・CO2削減などの付加価値を提供している。

三菱電機(6503):スマートグリッド実証実験設備を持ち、最前線で業界を牽引

デジタルエナジー事業として、蓄電池やスマートグリッド事業を展開しており、再生可能エネルギーの安定供給や系統安定における様々な技術課題に対応している。「大容量蓄電池制御システム」や「VPPシステム」などのデジタルエナジー製品を開発・提供しており、電力会社や再生可能エネルギー事業者などの顧客ニーズに応えている。また、「次世代配電系統での配電高度化技術」として、マイクログリッドや分散電源の制御・保護技術を開発・実証しており、スマートグリッドに必要な高効率・高信頼性・低コストのソリューションを提供。

オムロン(6645):製造現場での豊富な知見を持ち、「課題解決まで」をサービスとして提供

スマートグリッドに必要な製品を開発・提供し、EMSやDRなどのスマートグリッドソリューションを展開しており、エネルギー効率や環境負荷の低減に貢献している。また、国際的なESG評価機関からも高い評価を受けている。

日本電産(6594):モーターの世界最大手で、自動車や家電、産業機器などに幅広く採用

省人化・5G & サーマルソリューション・EV & ADAS・エネルギー効率化・DXの5つの分野において、社会的課題の解決に貢献するソリューションビジネスを展開している。BESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)を開発し、再生可能エネルギーの安定供給やピークカットなどのスマートグリッドソリューションを提供している。さらに、モーター・ドライブ・発電機などの電動機器において、世界トップクラスの技術力とシェアを持ち、スマートグリッドに必要な高効率・高性能・低コストの製品を展開している。

大崎電気工業(6644):スマートメーターの国内トップシェアを持ち、高い技術力と信頼性を誇る

スマートメーターを活用したエネルギー・ソリューションやローカル5Gを活用したスマート工場など、新たな付加価値創出に向けた取り組みを進めている。まだスマートグリッドに関する事業は小規模で、収益性や知名度が低い。同社は、スマートメーターの強みを生かしつつ、スマートグリッドに関連する技術やサービスの開発・提供を強化することで、海外市場をさらに開拓できるかが注目。

図表3:大崎電気工業の中期経営計画よりセグメント別売上
出所:同社IR資料

 

3)スマートグリッド、EMS分野における中小企業のメリット

中小企業にとっても、EMS(エネルギー管理システム)の普及は新市場を開拓し、売上を拡大するチャンスである。たとえば、スマート家電やLED照明、建材など、エネルギー効率の高い製品を提供する企業は、EMSを活用した製品の提供が可能である。また、地熱暖房・冷房システム、風力タービン、ソーラーパネルなどの再生可能エネルギーソリューションに特化した企業は、自社製品をEMSと統合して顧客に更なる価値を提供することができる。さらに、エネルギー監査、コンサルティング、ソフトウェアサービスを提供する企業は、EMSを導入することで顧客となる企業のエネルギー消費最適化を支援することができる。中小企業は、これらの機会を活用して、持続可能性とエネルギー効率に対する需要の高まりに対応すべきである。

また、中小企業自身にとって、スマートグリッドの導入は、エネルギー消費量を把握し、不必要な消費を減らすことができ、太陽光発電などの自然エネルギーの利用も可能になる。これにより、エネルギーコストを削減し、企業の経営効率を高めることができる。さらには、環境負荷を低減し、地球環境の保全に貢献することもできる。ただし、スマートグリッドの導入には多額の投資、専門的な知識や技術が必要であることから、専門家との協力が欠かせない。中小企業がスマートグリッドに取り組む際には、投資のリスクを適切に把握し、専門家との協力やセキュリティ対策を含めたリスク管理が必要である。

ただし、スマートグリッド分野への参入は、中小企業が新しい市場を開拓するチャンスになり得る。特に再生可能エネルギーの導入や運用、ICT機器やソフトウェアの開発・販売・設置・保守、電力貯蔵装置の提供、エネルギーマネジメントシステムの開発・提供、コンサルティングや教育・研修を行う企業は、スマートグリッド関連技術普及の恩恵をうける可能性が高い。スマートグリッドに関する補助金や事例はまだ少なく、導入にはコストや規制などの課題もあるが、自社の強みやニーズを見極めることが成功のカギとなる。

 

4)中小企業向けの補助金

令和5年度のEMS関連の補助金については、経済産業省が「先進的省エネルギー投資促進支援事業費」を実施する予定である。詳細はまだ未定だが、令和3年度の「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」では、EMSを用いて省エネルギー対策を実施する中小企業に対して、投資費用の一部を補助するものであった。補助率は、一般的な中小企業で50%、中小企業基盤整備機構が認定する「環境経営型中小企業」や「環境経営優良事業所」などで60%。補助対象となるEMSは、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が指定するものに限られていた。

図表4,5:令和3年度「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」の補助金
出所:一般社団法人環境共創イニシアチブ

また、スマートメーターの導入には「IT導入補助金」も活用可能である。この補助金は、ITツールを導入しようとする事業者に対して、ITツール導入費用の一部を補助する制度だ。補助率は、一般的な中小企業で50%、中小企業基盤整備機構が認定する「環境経営型中小企業」や「環境経営優良事業所」などで60%です。補助対象となるITツールは、中小企業基盤整備機構が指定するものに限られる。中小企業基盤整備機構は、ITツールを提供するITベンダーを公募している。

スマートメータを導入した企業の具体例

  1.  株式会社ミヤコ IT導入補助金を活用して、スマートメーターとクラウド型の電力管理システムを導入した。これにより、電力使用量やピークカットの効果をリアルタイムで把握できるようになり、電力コストの削減や省エネルギーに貢献している。
  2.  株式会社エムティーアイ IT導入補助金を活用して、スマートメーターとAIを組み合わせた電力需給予測システムを導入。これにより、電力需要の変動に応じて最適な発電計画や需給調整を行えるようになり、電力安定供給や再生可能エネルギーの活用に貢献している。
  3.  株式会社アイエスエス IT導入補助金を活用して、スマートメーターとIoTデバイスを組み合わせたビル管理システムを導入した。これにより、ビル内の空調や照明などの設備の運用状況や消費電力量をリモートで監視・制御できるようになり、ビルの省エネルギー化や運用効率化に貢献している。
出所:https://it-case.smrj.go.jp/https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2021/210616mono.html

 

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