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AI時代の企業評価 人的資本 拡張人的資本

AI時代の企業評価(経済性・社会性・人とAIの組織能力で見る「強さ・優しさ・賢さ」)

3行要約:

これまでの企業評価は、経済性、つまり「儲けられる強さ」を見るものだった。
SDGs・ESG以降は、そこに社会性、つまり「人や社会・環境への優しさ」が加わった。
そしてAI時代には、会社を「人とAIの集合体」として捉え、その「賢さ」まで評価する必要がある。

企業評価の進化を、これまでの時代、SDGs・ESGの時代、これからのAI時代の3段階で示した図解
企業評価は、経済性だけを見る時代から、社会性を含める時代、さらに人とAIの組織能力を見る時代へ進化する。

本文構成:

  1. 企業評価は「強さ・優しさ・賢さ」の時代へ
  2. これまでの企業評価は「経済性=儲けられる強さ」が中心だった
  3. SDGs・ESG以降、企業評価は「経済性+社会性」へ広がった
  4. これからの会社は「人の集合体」から「人とAIの集合体」になる
  5. 人的資本は「拡張人的資本」へ変わる
  6. AIはコスト削減ツールではなく、企業価値を構成する無形資産になる
  7. AI時代の企業評価では「組織OSの賢さ」が問われる
  8. 企業価値の源泉は「人材の保有」から「判断の設計」へ移る
  9. これからの企業評価は「強さ・優しさ・賢さ」の3層構造になる
  10. 強く、優しく、賢い会社が評価される社会へ

執筆者:サステナブル・ラボ株式会社 代表取締役CEO 平瀬錬司

執筆年月日:2026年5月9日

本文:

1. 企業評価は「強さ・優しさ・賢さ」の時代へ

会社という前提が変わり始めている

会社が人の集合体から人とAIの集合体へ変化する様子を比較した図解
会社は、人だけで業務を進める組織から、人とAIが協働し、データに基づいて価値を生む組織へ変わっていく。

これまで、会社とは何かと問われれば、多くの人は「人の集合体」と答えてきたと思います。

経営者、従業員、株主、顧客、取引先。
会社は、人が集まり、人が意思決定し、人が事業をつくり、人が価値を生み出す組織でした。

もちろん、機械やソフトウェアやデータは以前から存在していました。
しかし、それらは基本的には「人を補助する道具」でした。

ところが、生成AIの登場以降、この前提が大きく変わり始めています。AIは、文章を書く。コードを書く。リサーチする。顧客対応をする。資料をつくる。分析する。提案する。場合によっては、業務プロセスの一部を自律的に実行する。

つまり、会社はこれから、単なる「人の集合体」ではなく、人とAIの集合体になっていく。

企業評価も、当然アップデートされる

会社の前提が変わるなら、企業評価のあり方も変わるはずです。私は、これからの企業評価は次のような流れで進化していくと考えています。

これまでの企業評価
= 経済性
= 儲けられる強さ

↓

SDGs・ESG以降の企業評価
= 経済性 + 社会性
= 儲けられる強さ + 人や社会・環境への優しさ

↓

AI時代の企業評価
= 経済性 + 社会性 + 人とAIの組織能力
= 強さ + 優しさ + 賢さ

企業を見るものさしは、時代とともに変わります。かつては「強い会社」が評価された。その後、「強くて優しい会社」が評価されるようになった。そしてこれからは、強くて、優しくて、賢い会社が評価される時代になる。

これが、私の仮説です。

2. これまでの企業評価は「経済性=儲けられる強さ」が中心だった

財務から見た企業の強さ

これまでの企業評価の中心は、端的に言えば 経済性 でした。言い換えれば、企業がどれだけ 儲けられる強さ を持っているかです。

どれだけ売上を伸ばしているか。
どれだけ利益を出しているか。
キャッシュフローをどれほど生み出しているか。
資本効率は高いか。
市場シェアを持っているか。

企業価値評価の多くは、財務諸表を起点に組み立てられてきました。もちろん、経営者の質、ブランド、技術力、顧客基盤、組織文化といった非財務的な要素も見られてきました。

ただし、それらも最終的には「将来どれだけ稼ぐ力につながるか」という観点で評価されてきたと言えます。

この会社は、どれだけ経済的価値を生み出せるのか。
この会社には、儲けられる強さがあるのか。

強さだけでは見えないもの

この問いは、今でも重要です。企業が持続するためには、経済性が必要です。利益を出せない会社は、長期的には存続できません。

一方で、この時代の企業評価には大きな限界がありました。企業活動が人や社会・環境に与える影響が、十分に評価へ織り込まれていなかったことです。

短期的に利益を出していても、環境負荷が大きい。人権リスクを抱えている。サプライチェーンに問題がある。地域社会との関係が悪化している。あるいは、従業員の健康や多様性が軽視されている。

こうした要素は、かつては「財務の外側」にあるものとして扱われがちでした。しかし、現実にはそうではありません。

環境問題も、人権問題も、ガバナンスの問題も、企業の長期的な価値に直結します。つまり、人や社会・環境への配慮を欠いた会社は、短期的には強く見えても、長期的には弱くなっていく。

そのため、企業には「儲けられる強さ」だけではなく、人や社会・環境への優しさも必要だという認識が広がっていきました。

3. SDGs・ESG以降、企業評価は「経済性+社会性」へ広がった

問いは「どれだけ稼げるか」から「どう稼ぐか」へ

SDGsやESGの考え方が広がったことで、企業評価は大きく変わりました。企業は、単に利益を出せばよい存在ではない。社会や環境と接続された存在であり、企業活動が生み出す外部性も含めて評価されるべきである。

この考え方が、企業評価の前提を変えました。

従来の問い:この会社は、どれだけ稼げるのか。

SDGs・ESG以降の問い:この会社は、どのように稼いでいるのか。
その稼ぎ方は、人や社会・環境に対して優しいのか。

この変化は非常に大きいものです。売上や利益だけでなく、CO2排出量、人的資本、多様性、労働環境、人権、地域社会、サプライチェーン、ガバナンス、情報開示といった要素が、企業評価の対象になりました。

経済性だけを見る評価
= 儲けられる強さを見る評価
経済性と社会性を合わせて見る評価
= 儲けられる強さ + 人や社会・環境への優しさを見る評価

優しさは、強さと対立しない

ここで重要なのは、優しさは強さと対立するものではない、ということです。かつては、環境対応や人的資本への投資は「コスト」と見られることが多かったと思います。

しかし現在では、それらは企業の長期的な競争力やリスク耐性に関わる要素として認識されるようになっています。たとえば、脱炭素への対応が遅れれば、将来的な規制リスクや取引停止リスクにつながるかもしれません。

また、人的資本への投資を怠れば、採用力や生産性が落ちる可能性があります。さらに、ガバナンスが弱ければ、不祥事やレピュテーションリスクが高まります。

つまり、優しさは「きれいごと」ではありません。優しさは、企業の持続的な強さを支えるものです。社会性は、経済性の外側にある飾りではなく、企業価値の構成要素になったのです。

サステナブル・ラボが向き合ってきた領域

私たちサステナブル・ラボが向き合ってきたのも、まさにこの領域です。企業の非財務情報、ESGデータ、サステナビリティ情報を可視化し、企業価値との関係を捉え直す。

経済性だけでは見えなかった企業の力やリスクを、社会性の観点から評価する。言い換えれば、私たちはこれまで、企業の 強さ優しさ をどう接続するかに向き合ってきました。

そして今、さらに次のアップデートが始まっています。それが、AIです。

4. これからの会社は「人の集合体」から「人とAIの集合体」になる

人を見るだけでは、企業の実力を評価できなくなる

人的資本がAIによって拡張人的資本へ進化する仕組みを示した図解
人的資本は、人の能力にAIを掛け合わせることで、拡張人的資本へと進化する。

これまで、会社は基本的に「人の集合体」でした。そのため、企業評価においても、人を見ることが重要でした。

優秀な経営者はいるか。従業員の質は高いか。採用力はあるか。離職率は低いか。組織文化は強いか。人材育成はできているか。人的資本に投資しているか。

これらは、今でも極めて重要です。しかし、AIが本格的に組織に組み込まれていくと、「人を見る」だけでは企業の実力を評価できなくなります。

なぜなら、同じ100人の会社でも、AIをどのように使っているかによって、実質的な生産能力が大きく変わるからです。

同じ人数でも、組織能力はまったく違う

ある会社では、AIは個人が文章作成に使う便利ツールにとどまっている。別の会社では、営業、開発、法務、経理、カスタマーサポート、採用、IR、経営企画など、主要業務の中にAIが組み込まれている。

さらに別の会社では、AIエージェントが業務プロセスの一部を自律的に担い、人間は判断、設計、監督、責任を担っている。

この3社は、同じ人数であっても、企業としての能力がまったく違います。したがって、これからの企業評価では、次の問いが重要になります。

この会社には、どれだけ優秀な人がいるのか。

だけではなく、

この会社は、人とAIを組み合わせて、どれだけ賢く価値を生み出せるのか。

を見なければならなくなる。

ここで言う「賢さ」とは何か

ここで言う「賢さ」とは、単にAIを導入していることではありません。AIを使って、会社の仕組みそのものをどう進化させているか。人間とAIの役割分担をどう設計しているか。

加えて、どの判断を人間が担い、どの実行をAIが担うのか。AIの力を借りながら、より速く、より正しく、より持続可能に価値を生み出せるか。これが、これからの企業に求められる 賢さ です。

AI時代の企業評価
= 経済性 + 社会性 + 人とAIの組織能力
= 強さ + 優しさ + 賢さ

5. 人的資本は「拡張人的資本」へ変わる

人的資本の見方が変わる

SDGs・ESG以降、人的資本は企業評価において重要なテーマになりました。しかしAI時代には、人的資本の見方そのものが変わると考えています。

従来の人的資本とは、主に「人間の能力」でした。従業員のスキル、経験、エンゲージメント、多様性、リーダーシップ、採用力、育成力。こうした要素が評価されてきました。

これからは、そこにもう一つの視点が加わります。それは、人間がAIを使って、どれだけ能力を拡張できるかです。

私はこれを、仮に 拡張人的資本 と呼びたいと思います。

従来の人的資本
= 人の能力

拡張人的資本
= 人の能力 × AIを使いこなす能力

AIを使う力より、AIを評価する力

この概念は、企業の「賢さ」を測るうえで非常に重要になると思います。ただし、AIを使う能力とは、単にプロンプトを書く能力ではありません。

もちろん、AIに適切な指示を出す力は重要です。それ以上に重要なのは、AIの出力を評価する力です。AIが出した答えは正しいのか。どこにリスクがあるのか。どの判断は人間が担うべきなのか。

さらに、どこまで自動化してよいのか。どの業務にAIを組み込めば、本当に価値が出るのか。こうした判断が必要になります。

AI時代に重要になるのは、AIに任せる力だけではありません。AIを疑う力、設計する力、監督する力、そしてAIの力を借りながら人間として責任を引き受ける力です。

AI時代の人的資本評価

これまでの人的資本評価これからの拡張人的資本評価
優秀な人材が何人いるか優秀な人材がAIを使って何倍の価値を出せるか
従業員数人間とAIを合わせた実質的な生産能力
研修時間AIを業務に組み込む学習能力
スキルAIを活用・検証・監督するスキル
組織文化人とAIが協働する組織OS
1人当たり売上1人+AI当たり売上

これからは、「人が多い会社」が強いとは限りません。むしろ、少人数でもAIを高度に組み込み、大きな価値を生み出す会社が増えていくでしょう。

そのため、企業評価においては、この差を見抜く必要があります。

6. AIはコスト削減ツールではなく、企業価値を構成する無形資産になる

効率化だけでは、AIの本質を見誤る

AIの導入というと、最初に語られがちなのは効率化です。資料作成の時間が減る。問い合わせ対応が自動化される。リサーチが速くなる。コーディングが効率化される。事務作業が削減される。

もちろん、これは重要です。企業の「儲けられる強さ」を高めるうえで、AIによる効率化は大きな意味を持ちます。

ただし、AIの本質的なインパクトは、単なるコスト削減にとどまらないと思います。AIは、企業の中で次第に 資本 のような存在になっていく。あるいは、無形資産 のような存在になっていく。

企業の中に蓄積されるAI関連資産

たとえば、企業の中には今後、次のようなAI関連資産が蓄積されていきます。

  • 業務ごとに設計されたAIエージェント
  • 社内独自のプロンプトやワークフロー
  • 顧客対応のナレッジ
  • 営業提案の型
  • 法務・経理・IRなどの業務プロセス
  • AIの出力を評価するためのデータセット
  • 社内データとAIを接続する基盤
  • 人間がAIを監督するルール
  • AI利用のログや監査体制

これらは、目に見えにくい資産です。財務諸表にも、そのまま載るわけではありません。しかし、企業の競争力には大きく影響します。

同じAIモデルを使っていても、会社ごとに成果が違うのはなぜか。それは、AIそのものよりも、AIをどの業務に、どのデータと、どの責任設計で、どのワークフローに組み込んでいるかが違うからです。

評価すべきは、導入ではなく組織能力化

評価すべきでない問い
= AIを導入しているか

評価すべき問い
= AIを企業の組織能力として組み込めているか

AIは、単なるツールではなく、企業価値を構成する新しい無形資産になっていく。この見方が、AI時代の企業評価には必要になると思います。

7. AI時代の企業評価では「組織OSの賢さ」が問われる

組織OSとは何か

AI時代の企業評価で、私が最も重要だと思うのは、組織OS という視点です。

ここで言う組織OSとは、会社の中で次のようなことを定める仕組みです。

  • 人間が何を担うのか
  • AIが何を担うのか
  • どの判断は人間が行うのか
  • どの作業はAIに任せるのか
  • どのデータを使うのか
  • 誰が責任を持つのか
  • どう監査するのか
  • どう改善し続けるのか

AIを導入すること自体は、もはやそれほど難しくありません。問題は、AIを会社の仕組みの中にどう組み込むかです。

AI活用は、設計されて初めて価値になる

たとえば、AIが営業メールを書くことはできます。しかし、そのメールを誰が確認するのか。顧客情報をどこまでAIに渡してよいのか。誤った提案をした場合、誰が責任を持つのか。

さらに、過去の商談データをどう学習に使うのか。成果をどう測定し、次の改善につなげるのか。ここまで設計されて初めて、AIは企業価値に変わります。

逆に言えば、AI活用が属人的で、部署ごとにバラバラで、責任の所在も曖昧なままであれば、それは企業価値の源泉ではなく、リスクにもなり得ます。

評価されるのは、
AIを使っている会社ではなく、
AIを組織OSに組み込んでいる会社である。

これこそが、企業の「賢さ」です。

8. 企業価値の源泉は「人材の保有」から「判断の設計」へ移る

優秀な人材だけでは不十分になる

AI時代において、企業価値の源泉は大きく変わります。これまでは、優秀な人材をどれだけ保有しているかが重要でした。

もちろん、これからも優秀な人材は重要です。しかし、AIが高度化するほど、単に優秀な人を集めるだけでは不十分になります。

重要になるのは「判断の設計」

重要になるのは、判断の設計です。どの判断を人間が行うのか。どの判断をAIに補助させるのか。どの業務をAIに任せるのか。

加えて、どこに人間の責任を残すのか。どのデータを使い、どのように検証するのか。どのリスクは許容し、どのリスクは許容しないのか。

この設計ができる企業は、AIを使って大きく成長するでしょう。一方で、設計できない企業は、AIを導入しても成果が出ない。あるいは、AIによって新たなリスクを抱えることになるかもしれません。

これからの企業評価で重要な問い
= どれだけ人を抱えているか

ではなく、

= 人とAIの役割分担をどれだけ賢く設計できているか

これは、企業経営における大きな転換点です。

9. これからの企業評価は「強さ・優しさ・賢さ」の3層構造になる

3つの評価層

これからの企業評価は、次の3層構造になると考えています。

評価層意味主な評価対象
強さ経済性、儲けられる力売上、利益、成長率、資本効率、収益性
優しさ社会性、人や社会・環境への配慮ESG、人的資本、環境負荷、人権、ガバナンス
賢さ人とAIの組織能力AI活用、AIガバナンス、学習速度、組織OS

これは評価項目の追加ではなく、企業観の変化である

この変化は、単なる評価項目の追加ではありません。企業とは何か。組織とは何か。人間の仕事とは何か。価値を生む主体とは何か。そうした根本的な問いの変化です。

これまで、企業価値は主に「人間がつくるもの」でした。これからは、人間とAIが協働してつくるものになります。

だからこそ、企業評価も、人間だけを見る評価から、人間とAIの関係性を見る評価へと進化しなければならない。私はそう考えています。

10. 強く、優しく、賢い会社が評価される社会へ

企業評価の歴史を大きく捉える

企業評価の歴史を大きく捉えると、次のような流れが見えてきます。最初は、企業の 儲けられる強さ が見られていた。

次に、企業の 人や社会・環境への優しさ が見られるようになった。そしてこれからは、企業の 人とAIを組み合わせて持続的に価値を生む賢さ が見られるようになる。

企業評価の中心は、

どれだけ稼げるか
↓
どのように稼ぐか
↓
誰が、あるいは何が、どのような仕組みで価値を生むのか

へと進化していく。

人間とAIの関係性を設計する企業へ

これからの会社は、人だけの集合体ではありません。AIだけの集合体でもありません。人間が問いを立て、判断し、責任を持つ。AIが実行し、補助し、拡張する。

その関係性を設計できる企業が、これからの時代に強い企業になる。そして、その設計力こそが、これからの企業評価における新しい価値の源泉になると思います。

サステナブル・ラボとして向き合うテーマ

企業評価は、また一段階進化する。経済性から、社会性へ。社会性から、人とAIの組織能力へ。

強さから、優しさへ。
優しさから、賢さへ。
そして、強く、優しく、賢い企業へ。

この変化をどう捉え、どう測定し、どう企業価値に接続していくか。それは、私たちサステナブル・ラボにとっても、これから向き合うべき大きなテーマだと考えています。




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